初めての方はこちらの記事からお読み下さい。
[URL]
暗闇に包まれてから2度ほど大きな揺れて以降は静かになっていた。
ルワンは結界を展開する直前に引く寄せたまま、抱き留めていたティティスを解放すると、チェルニーを背負ったまま座り込んだ。
「ティティス、明かりを頼む。」
ルワンの言葉に対して、ティティスは人形のような堅くゆっくりとした動きで、胸元からネックレスを引っ張り出した。
ネックレスの先に付いた明るい緑色の宝石を指で弾くと、淡い光を放ち始めてうっすらと世界を彩っていった。
ネックレスの明かりが狭い空間を満たすと、ティティスはルワンの姿を探して辺りを見回し始めた。
「こっちだ。」
下から聞こえてきた声の方へ目を向けて、探していた顔を見つけると安堵の表情を浮かべながら、ドサッと音を立てて座り込んだ。
「読書用の明かりだから薄暗いけど、大丈夫かしら?」
「俺は明かりを必要としない。お前等が不安でなければそれでいい。」
ルワンは素っ気なく返事をしながら、背中に抱き付いていたチェルニーを引き剥がして、隣に座らせていた。
「読んで知るのと、実際に体験するので勝手が違ったか?」
座ってから押し黙ったままだった空間に、ルワンの声が静かに響いた。
「全く違った。本の中では放心状態となる人が多くて、不思議に思っていたけど、今は納得しているわ。私もだったからね。」
「放心していても俺の言葉に反応していたのだから、一応は及第点をやろうか。」
そう言いながらポーチから3つのコップを取り出して、少し丸みのある床に並べた。
続けて手の平サイズの水筒を取り出すと、3つのコップに目一杯の水を注いでいった。
進められるままにコップを手にして、口を付けて喉を潤していくと、自然と口からホッと息が漏れてきた。
「赤の書を何度も読み返して、疑似体験を積んできたつもりだったのに、やっぱり見ると聞くとでは大違いなのね。」
冷静さを取り戻してくると同時に、ティティスが己の不甲斐なさに頭を抱え始めた。
「赤の書?」
ティティスと同じくように、コップに口を付けた事で、緊張の糸の張り詰めた状態から脱したチェルニーが首を傾げた。
「赤の書は小説のタイトルで、ルワンの冒険談を元にして書かれた私の愛読書よ。」
説明しながら鞄から1冊の本を取り出して、チェルニーに手渡した。
「現在まで49巻まで出ていて、凄く有名な本なのよ。さっきから私が説明していた話は全て赤の書の受け売りなのよ。」
「さっきの手帳は読めたけど、こっちの本は読めないや。」
渡された本のページを捲っていたチェルニーが寂しそうな顔を向けてきた。
「そっちは普通の本だから仕方がないわ。文字を教えてあげる暇は無いだろうから、時間がある時に読み聞かせてあげるわ。」
ティティスの申し出にチェルニーが明るい笑みを浮かべる傍らで、ルワンはあっと言う間に緊張感を無くした2人に呆れていた。
次へ
[URL]
セコメントをする